建築大空間の気流分布測定手法とその可視化ソフトの開発

森  太郎(北海道大学大学院工学研究科人間環境計画学講座/助手)

背景・目的
 積雪寒冷地では、寒さに閉ざされがちな冬期に様々な活動を行う場所として大空間は必要性の高い空間である。しかし、これらの空間は温度、湿度、気流等にむらが生じやすいため、温熱環境計画の立案や管理・運営にはシミュレーションや室内環境の実測調査の結果に基づいた合理的な建築計画や施設運営が必要となる。
 申請者らは実測調査手法の一つとして平成9年度から大空間内の気流動を簡易に測定する手法の開発を行ってきた、本研究テーマではこの手法の利用範囲や汎用性を広げるための検討を行った。
内容・方法
 本研究テーマでは本気流動測定手法の利用範囲や汎用性を広げるために次の3テーマにおいて手法開発や効果の検討を行った。以下にテーマと検討の概要を示す。
@デジタルビデオカメラ(以下DVカメラ)設置の省力化手法の開発:調査実施時に最も手間のかかるDVカメラの設置作業を省力化する手法の提案と効果の検討、今後の開発の方向性を示した。
A画像解析の自動化・省力化:これまでクリック(マニュアル)で行っていた気球座標のサンプリングを自動化する方法を提案し、実際の作業への適用結果と結果を踏まえた今後の開発の方向性を示した。
B測定結果の可視化を行うソフトの開発:ベクトル図をPov-Ray形式とVRML形式で描くためのプログラムを作成した。また結果を http://kkyo14-ue.eng.hokudai.ac.jp/~konishi/bag/index.htmで公開した。
結果・成果
1.DVカメラ設置の省力化手法の開発
 現在、この測定手法を用いるとき最も手間がかかるのが測定時にDVカメラの位置や方向を確定する作業である。これまでは建築図面、DVカメラの液晶パネル上の画像、水準器などを頼りにこの作業を行っていた。今回検討を行ったのは、空間内に相互の位置関係が確定している基準点を数点設け、任意に設置したDVカメラから得られた画像を元に、DVカメラの空間位置を求める方法である。DVカメラから得られた画像からは、その画素数(600×480PIXEL)の位置情報を得ることができる。この位置情報はそれぞれが、DVカメラからのベクトルに変換することが可能なので、位置が既知の点を何点か設け、そこから逆算すればDVカメラの位置を確定させることができると考えた。
 具体的には、直交座標の模型を作成し、またDVカメラの座標(XCCC)を未知数とした連立方程式を作成した。直交格子を任意の位置に設置したDVカメラで撮影した画像を元に解析(Newton-Raphson 法によって連立方程式を解く作業)を行った結果、計算は収束し、解答(カメラの座標)も概ね整合性があった。
2.画像解析の自動化・省力化
 気球の調査対象空間における三次元的な位置を求めるためには、DVカメラから得られた画像内における二次元位置(x,y 座標)が必要になる。これまでは、この座標を得るために手作業のクリックによってその作業を行っていた。しかし、画像のサンプリング間隔が細かくなったり、気球の数が多くなったりするとデータの数が大量になり解析に手間がかかる。この作業を自動化し、より大量のデータの解析が行えるようにするため気球の自動追尾手法について検討を行った。
 具体的には、気球は煙のように形状や性質が変化する気流トレーサーではないので、初期のデータの輝度情報が大きく変化することはないという性質を利用して、輝度情報の類似度が最も高いポイントを検索対象の画像中から探し出すアルゴリズムを開発し、気球がはっきり確認できる画像であれば、高い確率で自動追尾が成功した。
3.測定結果の可視化を行うソフトの開発
 ベクトル図を描くためのプログラムを作成した。実際にベクトル図を書くのはフリーのレンダリングソフトのPov-Rayであるが、Pov-Rayはテキストで作成されたコードを元にレンダリングを行い、3D のCGを作成するので気球の軌跡データからこのテキストを生成させるプログラムを作成した。また、同様に、気球の軌跡データをWeb 上の3Dグラフィックスのスタンダードな仕様(言語)となっているVRML(Virtual Reality Modeling Language)形式に変換するプログラムを作成した。この形式はCosmo Player(Cosmo Software 社)やVRML Viewer(Micro soft 社)等を使用するとホームページを閲覧する人が任意の視点から測定結果を見ることが可能である。これらの測定結果は http://kkyo14-ue.eng.hokudai.ac.jp/~konishi/bag/index.htmで公開している。
今後の展望
 DVカメラやコンピューターの分野は現在、技術革新がめざましく、DVカメラはより多くの画像情報を簡単に手に入れられるようになり、また解析に必要なコンピューターも処理速度が速く、容量も大きい物が安価に手に入れられるようになってきている。したがって、本気流測定手法はこれらの周辺機器の進歩によっても、より汎用性が高く、取り扱いの簡易な気流動の測定システムとなるはずである。
 今後の課題としては@DVカメラ設置の省力化手法の開発に関しては、まだ獲得されたカメラの座標と実際の位置に誤差があるため、この誤差を実用に耐える程度に小さくする必要がある。カメラの軸の回転を考慮した連立方程式の作成によってそのレベルの精度にまで持っていきたいと考えている。A画像解析の自動化・省力化に関しては、背景の情報に大きな変化があるような場合に自動追尾が失敗することが多い、この点に関して今後アルゴリズムの改良を行っていく必要があると考えている。