|
鉛テルル等の熱電材料は熱電発電、熱電冷却等の応用に不可欠な電子材料であるが、効率の低さから、現在、その応用は特殊な利用のみに限られている。しかし、廃熱からも電力への変換が可能である等、21世紀のエネルギー・環境問題を考える上で熱電技術は重要であり、高い熱電効率を持つ新熱電材料の開発は急務であると考えられる。
本研究の目的は、優れた熱電材料としての多くの条件を満たすと考えられる「満たされたスクッテルド鉱型化合物」の試料合成及び熱電特性評価を行い、次世代熱電材料への応用が期待できる新物質を探索することである。
|
|
三元系希土類金属化合物 RET4X12(RE=希土類金属、T=遷移金属、X=プニコゲン元素)は体心立方晶系の「満たされたスクッテルド鉱型構造」と呼ばれる結晶構造をとり、その結晶構造の特殊性、それに起因した電子構造の特殊性から優れた熱電材料としての応用が期待される物質である。しかし、この物質は安定した単一相を得るのが難しく、これまで物性測定がほとんど行われていない。従来、RET4X12の合成にはフラックス法が用いられてきたが、本研究では二元系、三元系金属リン化物の合成に有効である高温高圧合成法を用いてRET4X12の合成を行った。
特にセリウム元素を含むRET4X12に注目し、系統的な試料作成を行った。得られた試料の結晶構造の同定は、粉末X線回折法(CuKα)を用いた。熱電特性を調べるため、電気抵抗(ρ)、ホール効果、ゼーベック係数(S)、熱伝導率(κ)の測定を行い、性能指数を評価した。無次元の性能指数(ZT)は ZT = S2T/ρκで表される。ここで、Tは絶対温度である。
|
|
本研究では、2つの満たされたスクッテルド鉱型化合物、CeRu4P12,CeOs4P12の合成に成功した。各試料のX線回折パターンは満たされたスクッテルド鉱型化合物のピークのみが認められ、これらの試料は単相の CeRu4P12、CeOs4P12であると考えられる。格子定数はそれぞれ8.0498Å、8.0714Åある。電気抵抗、ホール効果、ゼーベック係数の測定を行った結果、2つの化合物はともに狭ギャップのP型半導体であることがわかった。150〜300K で見積もられる活性化エネルギー(エネルギーギャップ)はそれぞれ約 1000K, 250K である。最近のバンド計算によれば 、CeRu4P12 、CeOs4P12はともに半導体となることが示されており、ギャップの大きさも計算値と矛盾しない値を示している。また、室温付近において、それぞれ+270μV/K、+130μV/K の大きなゼーベック係数の値を示す。ホール効果の測定から計算したキャリアー濃度は室温付近において 〜3×1020cm-3(CeRu4P12)、〜5×1019cm-2(CeOs4P12)の値を示す。キャリアー濃度は2つの試料ともに温度低下とともに減少し、150K 付近で最適値(n0〜1019cm-3)に近い値を示している。ホール移動度は、CeRu4P12は室温で2〜3cm2/Vsで低温においてもあまり変化しない。CeOs4P12は室温で100cm2/Vsの大きな値を示し、低温ではさらに大きな値を示す。
熱伝導率は熱拡散率、比熱の測定値から求めた。高圧装置の制約から得られた試料のサイズが小さいため、熱拡散率の通常の測定法であるレーザーフラッシュ法では測定精度に問題があり、信頼できるデータを得ることができなかった。そこで、専用の治具を開発することで、小さな試料でも精度良く測れるように改良し、直径3mm程度の試料の信頼できるデータを得ることが可能となった。熱伝導率は107mW/cmK(CeRu4P12)、105mW/cmK(CeOs4P12)であった。性能指数を評価すると室温でそれぞれ ZT=0.016, 0.020と見積もられる。今回得られた試料そのままでは大きな性能指数は得られなかった。これは、主に熱伝導率が大きいことが原因である。しかし、CeRu4P12、CeOs4P12は大きなゼーベック係数を持ち、さらに、CeOs4P12は高いホール移動度も持つため、さらに、キャリアードープなどの最適化を行うことで、性能指数はさらに向上することが期待できる。
|
|
|
CeRu4P12,CeOs4P12は優れた熱電特性を示すことがわかった。問題はいかに熱伝導率を小さくするかである。満たされたスクッテルド鉱型化合物は各元素の組み合わせで、同一結晶構造を保ったまま、非常に多くの物質が安定に存在することから、各サイトの元素置換が可能であると考えられる。従って、CeRu4P12,CeOs4P12の各サイトを適当な元素で置換することによって熱伝導率を十分に低下させることが可能であると考えられる。また、実際の熱電変換素子はP型、N型の半導体物質を一対に組み合わせて作製する。したがって、N型で大きな性能指数を示す物質の探索も必要である。
|