ファラデーの単極回転の教材化

斎藤  孝(北方圏理科教育振興協会/専務理事)

背景・目的
 1832年ファラデーが発見した単極誘導(円柱状の磁石の軸の一端に導線をつなぎ、他端は円柱側面をこするようにして、磁石を軸のまわりに回転させると、導線に電流が流れる)の発電現象を、電流を流してモーターとしての回転運動に利用した実験である。従来この実験は円柱状のアルニコ磁石を使い、円柱側面の中央より、磁石の軸の一端との間に電流を流し、磁石を回転させていたが、本研究ではこれを学校教材として使用するために、乾電池1.5Vと小さなフェライト磁石(100円程度の1000ガウスぐらいのもの)で行うものである。またその効果を大きくするため、回転する理由を考察するものである。
内容・方法
 単極回転の実験を、手軽に行う方法として、まず材料は @鉄釘 A乾電池 Bフェライト磁石 C銅線 を用意し、実験は次の順序で行う。まず、釘の頭部の平らな面に、同程度の大きさのフェライト磁石を磁力で付着させる。ために鉄釘は磁化され釘の尖った先端まで磁力を持つようになる。その先端を乾電池の+側の凸部に磁力で付着させ、乾電池の−側を上にして、+側に磁化された釘が吊り下がるようにする。次に乾電池の−側に銅線をつけ電気が流れるようにして、その銅線の他端を、釘の首(平らな頭部に近い丸棒部分)にこするように接触させる。その時吊り下がった釘は磁石と共に軸を中心にして自転する。  乾電池は、アルカリ電池のような大きな電流が得られるものが良く。電圧は1.5Vで十分である。この実験では自転をする初動のとき3A前後の電流が必要だが、回転と共に電流値は減少する。釘は頭部の平面の広いものを使い材質は鉄など磁化率の大きいものが良い。磁石はフェライト磁石の1000ガウス(¢8×3mm一個80円)を使用した。
結果・成果
 この実験で、釘が効率よく自転する理由と方法について、まず次の点について実験を試みてみた。@導線について(銅線とアルミ箔線)A銅線と釘との接触位置について B銅線の経路について C釘の大きさについて D磁石の材料について E乾電池について 以上の事を試みて、その結果次のようなことがわかった。銅線の太さは殆ど関係しない、なぜなら初動のときに大きな電流(3A)が流れるが自転と共にすみやかに減少するからである。銅線の代わりにアルミ箔を細く切って導線として利用すると、電流が流れた瞬間アルミ箔導線は一定方向に押され、折れ曲がって変形してしまう。これは釘の側面から直交して出る磁力線と、回路に流れる電流の向きとの間に働く相互作用の力による。静止した釘の側面から出る磁力線の向きをN→Sとするフレミングの左手の法則によって、流れる電流と直交する方向にアルミ箔は移動する。つまりアルミ箔が銅線のように硬く固定し動かないものであれば、その電磁力の反作用で釘の方が働く筈である。しかし釘は働かずに自転する。この自転する理由はなぜであるか、電流が作る磁界は釘から出る磁束に働くので、磁束が変化しようとする、そのため新たに釘を磁化するエネルギーが生ずる。そのエネルギーが釘を自転させるものと思考する。このことは磁束が釘に固定されているものと考えてもよい。  以上のような考察は、釘に固定された磁束が電流に働く力の反作用として釘が自転することになるので、自転を効率よくするためには、釘から生ずる磁束を大きくすればよい。そのために磁化する鉄の量を多くするため、太く長い釘の方がよい。しかし磁力で乾電池に付着しているので、釘の重さには限度がある。よって強力なネオジウム磁石で大きな釘を使い自転を効率良くすることが可能である。また磁束のすべてを効率良く利用するためには、電流の閉回路中に生ずる電流による磁界との相互作用を効果的ならしめるため、電流の回路は大きく迂回するのが良い。また釘から出る磁束をすべて利用するため、銅線と釘の接触点はなるべく釘の頭部つまり下部に近付ける必要がある。ただし釘と磁石が一体となって構成する磁石系の中央に接触させるのがよく、中央より下に接触したときは逆電磁力のため自転速度は減衰する。また釘から出る磁束は、釘の軸を中心に放射状に広がるので、そのすべてをとらえるために、電流の閉回路を一つに限らず並列に幾重にも設けることにより高速回転を得ることができる。
今後の展望
 この研究で得られた考え方によって、同じような構造をしているものから、ファラデーの単極誘導にならい低電圧大電流の発電機を作ることが可能と考えている。しかし現在手元にある器具で試作した段階では僅かな電力しか得られず、これを続けるのは極めて困難な研究と思っている。  またこの考え方を使い、銅のレール上を鉄の棒が自転しながら転がって行くものを作り、科学の祭典で展示する予定である。また釘の一端を中心に回転する電動機も試作中である。しかしこの実験で、磁化した釘の内部を進む電子が、軸の周りを螺旋状に働くと思うがそれは検証できなかった。