新しい森林生産活動を基調とした北海道中山間地域社会の創造

神沼公三郎(北海道大学農学部附属演習林/教授)
夏目俊二(北海道大学農学部附属桧山地方演習林/林長)
小島康夫(北海道大学大学院農学研究科/助教授)
玉井裕(北海道大学大学院農学研究科/講師)
山本信頼(自営業(農業))


背景・目的

 農林業を取巻く情勢は一段と厳しさを増しているが、地域社会とくに中山間地域を活性化するには、厳しい情勢に抗して農林業生産を向上させる必要があり、そのために生産活動のあり方を合理的に改革しなければならない。その具体的な試みのひとつとして、森林空間の機能的な利用を図りつつ、地域社会において特用林産物の複合的生産システムを確立することを提案する。このような生産システムを形成しつつある東北地方の事例に学びながら、北海道の中山間地域社会において特用林産物の地域複合的生産システムを構築する展望を考えるのが本研究の目的である。

内容・方法

 4種類の特用林産物=ワサビ、ジネンジョ、木炭・木酢液、シイタケ=の生産に関して東北地方の先進地を訪れ、生産者、生産組合責任者、自治体(県、町村)職員などに個別面接調査を行い、かつ生産現場を見学した。質問事項は生産工程、技術的諸特徴、地域的生産システム、流通ルート、販売価格、現状の問題点、今後の展望などである。これらの質問事項を整理して東北地方先進事例の現状を分析するとともに、北海道の中山間地域でこれら特用林産物の生産を試みる場合の問題点と可能性を考察した。またジネンジョについては北大桧山地方演習林(上ノ国町)で、シイタケについては北大構内(札幌)で栽培実験を実施した。各特用林産物に関する東北地方の調査地は以下のとおりである。
(1)ワサビ:青森県十和田湖町、倉石村
(2)ジネンジョ:秋田県五城目町
(3)木炭・木酢液:岩手県軽米町
(4)シイタケ:青森県倉石村

結果・成果

(1)ワサビ栽培について

 代表的なワサビ栽培方法である沢ワサビと畑ワサビの実態を調査した。沢ワサビ栽培農家は単独経営、単独出荷であるが、独自の流通ルートを持っている。畑ワサビ栽培はアカマツ、スギなどの人工林内で実施している。構成員23戸により生産・出荷組合が組織されている。販売価格は沢ワサビのほうが高価であるが、北海道南西部でも養水さえ確保できれば栽培可能だと思われる。なお畑ワサビ栽培は高齢者の家族労働でも実施できるので、過疎地域の産業として教訓的である。
(2)ジネンジョについて
 秋田県五城目町では、生産農家が生産者組合を組織してジネンジョの栽培に取り組んでいる。生産上の留意点は優良な種芋の確保と病虫害対策であり、これらの対策のため生産者組織の強化が必要である。北大桧山地方演習林内での栽培実験を総括すると、作付け期間の延長や催芽作業の改善などの技術的対策と流通ルートの確立を図ることが重要である。
(3)木炭・木酢液について
 木炭生産に関する問題は、原木確保、生産者の高齢化と後継者不足、低価格輸入炭の増大などであり、いずれも深刻である。だが岩手県軽米町とその周辺の計6市町村は共同で「日本一の炭の里」構想を樹て、意欲的生産活動を展開している。軽米町は最近、「特用林産産地化形成総合対策事業」の補助を得て生産施設を近代化するとともに、労働力配分、生産設備、流通経路などの集約化、システム化を図っている。こうした地域生産体制のシステム化は、木炭生産をめぐる諸問題の解決に有効である。
(4)シイタケの原木栽培について
 シイタケ生産をめぐる具体的問題も木炭と全く同じである。生シイタケ栽培には原木栽培と菌床栽培があるが、厳しい経済状況下で近年は菌床栽培が普及している。しかし品質、味にこだわるならば原木栽培のほうが優れている。そのために中山間地域では、他の作目との複合経営化を図って困難な経済環境の緩和に努めつつ、森林の林床空間を活用した露地栽培方法などによりコストダウンを実現すべきである。

今後の展望

 特用林産物の商品化を図るには、中山間地域の自然条件、社会条件に見合った、合理的で新しい農林生産体系のシステム化を確立する必要がある。特に特用林産物の場合、森林空間の多目的利用を目指した複合生産システムが有効であると考える。家庭内あるいは地域内でこうしたシステムの構築を目指すことによって、労働力配分の合理化、生産物の地域内循環あるいは地域周辺循環、地域内における各商品生産同士の連鎖性などが実現し、労働力、原材料、価格などの諸問題が緩和されていくであろう。このような経営システムは、北海道における中山間地域社会の再生に有効であると考える。