社会科学研究支援事業
社会科学研究補助金

介護保険実施のための地域福祉資源の開発に関する研究

前沢政次(北海道大学医学部附属病院総合診療部/教授)
鷹野和美(北海道大学医学部附属病院総合診療部/研究生)
大木忠司(大同ほくさん(株)/医療事業部担当部長)
田島隆一(DHIライフプランニング(株)/企画課長)
杉本満声(DHIライフプランニング(株)/営業課長)
及川和枝(医療法人渓仁会訪問看護ステーションみかほ/訪問看護婦)


背景・目的

 本格的高齢社会の到来により、高齢者に対する介護がひとつの社会問題になっている。厚生省は公的介護保険法案を成立させ、平成12年から実施する。これに対し市町村がどれだけ準備ができているかというと、北海道は特に施設依存型の福祉の色彩が強く、在宅福祉が十分展開されていない状況にある。これまでの研究で我々はその原因を浮き彫りにし、小規模市町村に実施可能な地域ケアシステムの構築法、人材の育成方法と人材活用の広域化について提言してきた。
 本研究は、最も大きな地域福祉資源である住民が、介護保険を機会に高齢者の閉じこもりや孤独化予防のため、また虚弱老人の早期発見、および重症化予防のための活動に参画するには、どのような働きかけが必要かについて明らかにすることを目的とする。

内容・方法

1.研究協力可能な1市3町の住民を対象に介護保険に関する意識調査を実施する。
2.地域住民に対するこれまでの啓蒙活動の質的評価、行政施策に対する住民の満足度等を調査し、問題点とその原因を明らかにする。
3.マンパワー不足、財政不足を補う人材育成の新しい方法論としてワークショップ方式に着目し、それを実際市町村に適用してみる。
4.単独市町村を越えて広域で人材を活用する方法、および行政と平行して民間が福祉産業を開発する具体的ノウハウも提案する。

結果・成果

(1)介護保険に関する住民意識の調査

 介護保険制度の内容を知っていると回答したものは一般高齢者22.7%、若年者21.8%、在宅要援護者13.7%、施設要援護者1.4%であった。他は名前は聞いたことがあるが、よく知らない、まったく知らない、無回答であった。
 介護保険料とサービス充実に関する認識としては、「多少保険料が高くなっても、介護サービスを充実すべきだ」という回答は一般高齢者34.5%若年者38.7%であった。一方、「保険料を上げないために介護サービスを抑制すべきだ」という回答は、一般高齢者21.9%であったのに比べ、若年者では35.9%で、2倍近い開きがあった。
(2)住民に対する啓蒙活動など行政施策に対する住民からの評価
 啓蒙活動が不十分であるとの声が強く、決まったことを早く分かりやすく説明して欲しいとの意見が強く出された。また、各自治会の民生委員と行政とのつながりを分かりやすくして、班(小規模)から区(中規模)への連絡が取れるとよい、などネットワーク形成への不満もあった。その情報不足に対する批判もあった。
 相談体制に関しては、電話で気軽に相談できる体制にはなっていないと考えていたり、身体のケアばかりでなく、心のケアも必要であるとの意見もあった。
 職員の対応については、福祉をよく理解していない職員がいる、職員数が足りないなど、不満の声も聞かれた。
 これらの不満足感の背景にあるものは、日頃からの住民と行政職員のコミュニケーション不足が考えられる。また、行政が議会以外に住民の声、意見を集約して聞く機会なども少ないことが考えられた。
(3)地域資源開発(人材育成)の試み
 美唄市、士幌町、足寄町の試みを報告した。美唄市では、市民参加型での「福祉の町づくり検討委員会」を実施した。士幌町、足寄町では福祉環境整備、介護保険事業アドバイザーグループなどを形成し、その代表者が介護保険事業計画策定委員会の委員として参加するようになった。

今後の展望

 地域住民は行政施策や介護保険に対して、自ら参加しようという意識に乏しく、要求のみ多い現状であるが、計画づくりの時期から実態把握も含めて参画していくと、その潜在能力を発揮でき、地域の有効な福祉資源となり得ることが本研究でも裏付けられた。その具体化には、行政職員の意識改革ばかりでなく、単独市町村を越えての共同事業や人事交流、民間からの人材巡遣も進めるべきである。福祉産業も、施設経営や福祉器具の販売やリースといった事業ばかりでなく、福祉活動の創意工夫や人材育成プログラムを提供できる産業へと発展させる必要があることを提言した。