低質木質バイオマス総合利用システムの開発

佐野嘉拓(北海道大学大学院農学研究科/教授)
戸倉満(玉造株式会社/取締役鉄鋼事業部長)
渋谷隆夫(株式会社ダイナックス/理事)
浦木康光(北海道大学大学院農学研究科/助教授)


背景・目的

 森林の保全・育成のために間・除伐材などの低質木材が大量に産出されるが、利用されずに林地残材として放置されている。また、紙へ再利用できない古紙の量も年々増加してきている。これら低質木質バイオマスを有効利用するために、木質バイオマス成分を効率的に分離して有効利用する木質バイオマス変換システムを構築する必要がある。本研究では、低質木材に加えて、北海道の特有のシラカンバを対象として、木質バイオマスの新規成分分離法の確立と、分離成分からの化学工業原料の生産及び高付加価値製品の製造というバイオマス工場の設立を目的とした。

内容・方法

 本研究は、1995年度のホクサイテック財団産業化研究開発支援事業の継続・発展研究であり、前回提案した常圧酢酸法により分離された木質バイオマス成分の利用法について検討を加えた。この研究では特に、針葉樹酢酸リグニンの利用と針・広葉樹の水可溶部の利用法について調べた。
(1)針葉樹酢酸リグニンから活性炭素繊維を調製するために、先ず、工業試験機を用いて溶融紡糸による繊維化の条件を検討した。さらに、1000℃で炭素化して炭素繊維に変換した。
(2)水蒸気賦活化法により活性炭素繊維を調製して、賦活時間と活性炭素繊維の吸着性との関係について調べた。
(3)常圧酢酸法の水可溶部を酢酸菌のバクテリアセルロース産生の糖源とするための改質について検討した。針葉樹の水可溶部は接触還元によりヘミセルロース糖を糖アルコールに変換した。広葉樹では、固定化グルコースイソメラーゼを用いて異性化を行い、バクテリアセルロース産生に供した。

結果・成果

1.針葉樹酢酸リグニンの炭素繊維及び活性炭素繊維への変換

 1996年の報告書で、広葉樹酢酸リグニン(LAL)から炭素繊維や活性炭素繊維が容易に調製できることを示した。針葉樹酢酸リグニン(NAL)は構成単位間の縮合構造に富むために、LALに比べ熱運動性に乏しく、直接溶融紡糸による繊維化は不可能であった。熱運動性の低い高分子画分を除去することで、溶融性画分を80%の収率で得ることができた。熱機械分析から、この分画NALは130℃にガラス転移点、200℃に結晶性高分子の融点に相当する流動開始点を持つことが示された。大量紡糸を目的に、工業用溶融紡糸試験機を用いて、このNALの紡糸条件を調べた。高圧押し出しが不可能な実験室試験機では、320〜350℃の高温紡糸には必要であったが、エクストゥルーダー付の工業用試験機では高圧押し出しが可能となり流動開始点より若干高い210℃で紡糸が可能となった。さらに、350m/xの高速巻き取りも可能であった。
 この繊維を炭素繊維に変換するには不融不溶化が必要であった。しかし、不融不溶化工程はLALに比べて大幅に時間が短縮できることが示された。LAL繊維は0.5℃/xと非常にゆっくり250℃まで昇温する必要があった、NALは4倍速の2℃/xで十分であり、時間の短縮は炭素繊維製造コストの大幅な削減に繋がる。
2.針葉樹酢酸リグニン活性炭素繊維の吸着性能
 NAL繊維を炭素化後、水蒸気賦活化により活性炭素繊維を調製した。40分間の賦活化ではNALの方がLALより比表面積が大きくなった。120分に賦活化時間を延長すると、比表面積、ヨウ素吸着量及びメチレンブルー吸着量は最高性能の市販活性炭素繊維と同等以上の値を示した。これより、NAL活性炭素繊維は優れた吸着剤であり、環境浄化資材としての利用が示唆された。
3.針・広葉樹水可溶部の改質とバクテリアセルロース産生
 木質バイオマスのヘミセルロース成分は常圧酢酸法の水可溶部として得られる。この成分を高純度・高弾性セルロースとして注目されているバクテリアセルロースの糖源として利用することを試みた。水可溶部そのままではバクテリアセルロース産生量が低かったので、針葉樹水可溶部は接触還元により糖アルコールに変換した。主要糖類のマンノースがマンニトールに変換され、産生量が3倍強に増加した。広葉樹水可溶部は酵素による異性化で、主要糖類のキシロースがキシルロースに約30%変換されて、産生量が約1.5倍に増加した。
 以上、本研究により、リグニンを原料とする活性炭素繊維等の機能性炭素材料が工業的にも効率的に調製可能であることが示された。また、水可溶部を工業原料として用いるための改質方法についても基礎的知見が得られた。

今後の展望

 溶融性の酢酸リグニンは成形加工が容易なために、繊維以外の形態の機能性炭素材料にも変換できるので、使用環境・用途に応じた環境浄化資材の開発へと研究を発展させる予定である。水可溶部の改質技術はバクテリアセルロース産生ばかりでなく、ヘミセルロース糖類をダイエット甘味料などの食品添加物として利用する技術、さらには、発酵原料として利用する技術にも繋がり、より効率的で低コストの改質方法が今後の課題といえる。これらの研究の一体化により、北海道に新規な木質バイオマス変換工業を構築できると考えている。