産業化研究開発支援事業
研究開発産業化促進補助金

新規のヒトメタロプロテアーゼに対する特異的抗体の作製とその利用

高橋孝行(北海道大学大学院理学研究科/教授)
大西淳之(北海道大学大学院理学研究科/助手)
釜田悟((株)ホクドー/専務取締役)
嘉屋元博((株)ホクドーバイオサイエンス事業部/課長)


背景・目的

 哺乳類の卵巣や子宮に見られるホルモン依存的な種々の現象には劇的な形態的変化を伴うものが多い。これは、これらの器官で活発な組織の再構築が起こっていることを意味しており、細胞外マトリックスの分解や再編に関わる多数のタンパク質が関与していることを示唆する。当研究室では卵巣や子宮に発現する新規のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)遺伝子を発見した。そこで、本研究では産業利用を念頭においた発展的研究として、この新規遺伝子(MIFR)によってコードされるタンパク質に対する特異的抗体を作製することを目的とした。

内容・方法

 ラットMIFR遺伝子を哺乳類細胞COS-7に発現させるため、開始コドンATGから始まりploy(A)で終わるMIFR cDNAを調製した後、発現ベクターpCDM8のNotIサイトに挿入した。定法により細胞内へのベクター導入を行い、増殖した細胞を増殖培地に懸濁してディシュに播き、48時間後に発現の程度を調べた。
 ラットMIFR遺伝子を大腸菌発現系において発現させるため、cDNAに適当な改変を施した後に、pET-30とpET-32の2種の発現ベクターに組込んだ。大腸菌に感染させ、正しい方向で挿入された大腸菌クローンを同定した。このクローンを培養し、IPTG誘導後、3時間インキュベートした菌を回収した。
 哺乳類細胞と大腸菌で発現したタンパク質の解析と抗体作製のための抗原調製を生化学的手法を用いて行った。大腸菌で発現させたラットMIFRタンパク質をウサギに免疫した。
 ヒトMIFR遺伝子の産物は2種類あることが判明したため、抗体作製に先立って、これらの解析を分子生物学的手法により実施した。

結果・成果

(1)哺乳類細胞によるラットMIFRタンパク質の発現

 ラット全長MIFR cDNAをCOS-7細胞に発現させた。発現タンパク質に、MIFRに由来する酵素活性があるかどうかについて、ゼラチンザイモグラフィー法を用いて検討した。内在性のゼラチン分解酵素のみが検出された。
(2)大腸菌によるラットMIFRタンパク質の発現
 発現ベクターpET-32 LICを用いて大腸菌にMIFRタンパク質を合成させる実験を行った。溶菌処理の大腸菌から調製した可溶性タンパク質と溶菌処理をしない大腸菌のインクルージョンボディーに蓄積した不溶性タンパク質は、いずれも酵素活性を示さなかった。
(3)活性型リコンビナントMIFR調製の試み
 大腸菌発現ベクターpET-30 LIC(ノバーゲン社)を用いた。この方法で調製した試料についてゼラチンザイモグラフィー、カゼインザイモグラフィー、および直接的な活性検出法の幾つかを試みたが、活性を確認できなかった。
(4)抗原としてのラットリコンビナントMIFRの調製と作製された抗体の検定
 今回用いた手法では、ラットリコンビナントMIFRは常に不溶性となり、可溶性の抗原を調製することが困難であったので、沈殿の懸濁液を抗原とすることにした。免疫したウサギの血清には、融合タンパク質MIFR/His-Tagのうち、C末端側のHis-Tag部分に対して形成された抗体が含まれていた。
(5)ヒト子宮に発現する2つのタイプのMIFR
 ヒト子宮cDNAライブラリーからMIFR cDNAクローンの単離を試みる過程で、MIFR遺伝子の転写産物と思われる2種類のmRNAが存在することが明らかになった。一つは正常型と言うべきタイプで、すでに報告済みの390アミノ酸からなるMIFRタンパク質をコードする。もう一つはヌクレオチド番号428(グアニン)と429(シトシン)の間に67ヌクレオチドの挿入のあるものであった。発現レベルで比較すると前者(正常型)を100%とすると後者(異常型)は10〜15%という比率であった。異常型では、67ヌクレオチドの挿入のため、1番目のアミノ酸(メチオニン)から142番目のアミノ酸(イソロイシン)までは正常型と同じであるが、143番目以降のアミノ酸配列は全く異なるタンパク質になる。

今後の展望

 大腸菌の発現系を用いる方法によって、リコンビナントラットMIFRタンパク質の調製が可能であることは確認できたが、特異的抗体は得られなかった。ヒト子宮にはMIFR遺伝子の産物として2つのタンパク質が存在することが明らかになり、これらを別々に認識する抗体を調製する必要がある。本研究によって、予想される2つのタンパク質の構造が明らかになったので、これらの分子を分別して検出できる特異的抗体の作製に着手できる環境が整ったことになる。