|
代表者は三叉神経刺激および音刺激が自律神経・循環器系に及ぼす影響を明らかにしてきた。研究過程でメディカルエレクトロニクスの分野では長時間の心電図記録を周波数分析することによってヒトの自律神経活動を非侵襲的に計測できることを知った。歯科騒音を音声分析してどの成分がヒト自律神経に強い影響を与えるかを心電図解析によって明らかにし、その成分をアクティブフィルタによって除去すれば、不快なばかりでなく、障害者や高齢者に深刻な事態を招く歯科騒音を除去することができる。そのような装置の開発を創案することであった。
研究は歯科騒音の音響学的解析、各成分がヒト自律神経循環系に与える影響を観測する非観血的モニタ装置の製作とそれによるデータの収集、歯科騒音成分の除去装置の開発からなる。
1.歯科騒音の音響学的分析では、歯科医療の現場より歯科騒音を記録し、周波数分析などの音響学的解析を行った。
2.ヒト自律神経活動循環系をモニタする小型装置を製作する。ノート型パーソナルコンピュータと生体電気増幅器、A/D変換器を組み合わせ、心電図・血圧などの長時間記録、周波数分析などを行う装置を製作する。これによって歯科治療現場においてデータを収集し、直ちに解析を行い、治療時の心拍、血圧、自律神経活動を解析できるようにしようとした。
3.騒音の音響学的分析に基づき、各騒音成分のヒト自律神経循環系に及ぼす影響を調べる。動物実験も行った。
4.アクティブフィルタを製作し、最も生体に影響を与える騒音成分除去を考えた。以上のような過程により目的を達成しようとした。
歯科騒音の記録および音響学的解析には、本学附属病院歯科麻酔科外来において、治療に使用するエンジン、タービン音、および歯牙切削音、洗浄液吸引音、スケーラ音を記録し、ソナグラフなどを用いて解析した。タービンによる歯牙切削音では500-1000Hzの低周波数音とともに3500-4000Hzの成分が含まれており、ときにこの高周波数成分は500-4000Hzに渡る広い帯域となることもあった。それに対して口腔内の洗浄時における吸引音は2000Hzと4000Hzあるいは1500Hzと3000Hzに主な成分を持つ音からなっていた。しかし、これらの音は70-80dBの音圧で外部に記録されたが、患者に対してはむしろ音としてばかりでなく、歯牙から頭骨に伝わる骨導による振動音として伝わっており、その部分がどのくらいであるかについては方法的に異なる観測を行わなければならず、今回の記録では影響を指摘するに留まった。
ヒトの自律神経系および循環系への騒音の影響については、歯科臨床現場において心電図RR間隔の解析までを行える小型装置の製作に先立ち、あるいは並行して、実際に臨床現場で、患者が治療中にどのような変化を示すかについて、心電図・血圧の長時間記録を行って解析した。自律神経活動の神経からの直接記録についてはウサギによる動物実験を行った。
歯科治療中のヒト40例について治療全経過の心電図・血圧を記録し、RR間隔を周波数解析した。RR間隔の周波数解析により、自律神経活動が推測される。この解析により0.04-0.15Hz成分(LF)と0.15-0.4Hz成分(HF)を調べるが、HFは副交感神経活動を反映し、LF/HFの比が交感神経活動を反映すると言われている。記録した例の解析によると、歯牙切削、切開、局所麻酔薬投与に伴って、RR間隔の変動、RR間隔変動の分散の変動、LF/HFの上昇が見られ、これらの治療行為によって自律神経活動が変動していることがわかった。しかし、これらの変動のうち、歯科騒音がどの程度の部分を占めているかについては今回の解析からは明らかにできなかった。
小型パソコンを利用した心電図・血圧の記録と解析については、装置を作成し、プログラムの作成とそれによる解析を試みた。しかし小型コンピュータではA/D変換速度に制限があり、高い周波数の音声解析には適さないこともわかった。
騒音成分の除去については上記音声分析によりいわゆるアクティブフィルタによる除去は工場騒音と同じ方法は適用できないが、タービンやエンジンからの振動については逆位相の音源を付加するなどの除去方法の可能性が示唆された。
本研究では歯科治療中のヒトの心電図・血圧の解析を行い、心電図RR間隔の分析から小型パソコンをモニタとして利用し、自律神経活動を推測することが可能であることがわかったが、その変動のうち騒音が占める影響を分離することはできなかった。これについては別にモデル実験を考案し、騒音の影響を他の治療行為の影響と分離して調べる必要があると思われた。また騒音そのものの除去についてはエンジン、タービンの騒音生成特性を解析し、生体影響とは別に装置の改良を行うことによってある程度の改善を行うことができることがわかった。
|