新しいヒト蛋白質因子D40のクローニングと細胞増殖抑制

瀧本将人(北海道大学医学部癌研究施設/講師)
吉田郁也(北海道大学遺伝子実験施設/助手)
藤田寿一(北海道大学医学部癌研究施設/助手)


背景・目的

 EGF-Receptor遺伝子の発現を調節する転写抑制因子としてGCFが知られ、この因子は細胞の増殖に抑制的に働くことが報告されている。申請者らは、GCFに特異的に結合するヒト細胞蛋白因子(D40)が存在することを見い出し、そのcDNAの一部のクローニングに成功したので、以下の目的で研究を行う。
1)D40をコードするcDNAの全長をクローニングし、その遺伝子と蛋白質の構造を明らかにする。2)D40の染色体マッピング及び癌細胞での発現について検討する。3)D40の細胞増殖抑制作用を明らかにする。

内容・方法

1.D40をコードするcDNAの全長をクローニング
 申請者は既に、D40のcDNAの一部をクローニングすることに成功している。このcDNAの一部をプローブとして、ヒトcDNAライブラリーをスクリーニングする。また、RACE法を用いて、cDNAの両端をクローニングする。
2.D40の染色体マッピングと癌細胞での発現検討
 FISH法によりD40の染色体マッピングをおこない、染色体異常が報告されている領域との関連を検討する。また、ヒト正常各組織と種々の癌での発現をノーザン法及びRT-PCR法を用いて検討する。
3.D40の細胞増殖制御作用についての検討
 サイトメガロウイルスのエンハンサー/プロモーターを持つプラスミドベクターにD40のcDNAを組み入れ、これを培養細胞HeLaに導入してD40を恒常的に高発現する細胞株を樹立する。親株に比べこのHeLa細胞の増殖がどのように変化するかを検討する。

結果・成果

1.D40cDNAの全長をクローニング
 既にクローニングされているD40のcDNAの一部をプローブとして、ヒト白血病細胞由来cDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、複数のクローンが得られた。しかし、塩基配列の決定によりこれらのクローンは何れもcDNAの末端を含んでいないことが明らかとなった。そこで、Rapid Amplification of cDNA End(RACE)法を用いてcDNAの末端をクローニングしたところ、5'側にin frameのstop codonを含むクローンが得られた。
2.D40の染色体マッピングと癌細胞での発現検討
 FISH法を用いてヒトの抹消血から採取したリンパ球を用いて、D40遺伝子の染色体マッピングをおこなった。その結果、D40遺伝子はヒト第15染色体長腕のq13-15に存在することが明らかとなった。この領域はヒトの白血病細胞等で異常が報告されている。また、この領域はimprintingされている遺伝子を多く含む領域の近傍に存在する。ヒト正常各組織でのD40遺伝子の発現は、精巣にて著しく高く発現しており、精巣以外では胎盤に於いて纔に発現が認められたが、その他の組織では発現は認められなかった。種々の培養細胞についてD40発現を検討したところ、殆どの細胞株で発現を認めた。また、原発癌では、全sampleの20-30%程度にその発現が認められた。
3.D40の細胞増殖制御作用についての検討
 D40の発現プラスミドとネオマイシン耐性遺伝子を用いたcolony inhibition assayを行ったが、D40によるcolony数の減少は認められなかった。また、D40を恒常的に高発現する細胞株の樹立を試みたが、D40を恒常的に発現するHeLa細胞株を樹立することができなかった。

今後の展望

 D40はヒト正常精巣に強く発現していること、種々の組織由来の原発癌で発現していることは、以下の様な興味深い研究課題を提起する。
 D40が精巣・癌に特異的に発現する分子機構の解明
 D40蛋白質の精巣における分子生理的な機能(造精における役割)
 D40蛋白質の癌化と癌細胞における役割(D40は最近注目されてきたcancer/testis antigenの新しい仲間ではないか?)