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魚類の筋肉タンパク質はゲル形成能、乳化能、保水能,塩溶解能など優れた加工機能性を有しており、これらの機能の改変は魚肉タンパク質の新規な利用形態の開発に繋がるものと思われる。既に著者らは、グルコースやリボース修飾によって魚類筋原線維タンパク質の低イオン強度溶媒に対する溶解性と乳化能が改変できる事実を、またデキストラン修飾によって筋原線維タンパク質の加熱凝集が著しく抑制できる事実を報告している。
本研究ではこれらの知見を踏まえ、水産オリゴ糖修飾による魚類筋肉タンパク質の機能改変の可能性について検討した。
海洋性バイオマスの代表であるアルギン酸とキトサンからオリゴ糖を調製し、これを用いて魚類筋肉タンパク質を修飾した。アルギン酸オリゴ糖は、チリ産褐藻(Lessonia属)由来のアルギン酸ナトリウムを海洋細菌(Pseudoalteromonas
属)由来のアルギン酸分解酵素によって分解調製した。キトサンオリゴ糖は、亜硝酸分解と酵素分解の2種類の方法を用いた。これら水産オリゴ糖によるタンパク質の修飾は、アミノ-カルボニル反応を利用したヒートパック法を採用した。すなわち、魚類の筋原線維タンパク質とオリゴ糖を50mM
NaCl、0.6M
ソルビトール混合溶液に懸濁溶解したのち凍結乾燥し、続いて30|40℃、相対湿度65%の恒温恒湿度下に保持したところ、オリゴ糖の還元末端とタンパク質中のリジンのε|アミノ基の間に起こるアミノ|カルボニル反応を介してタンパク質-オリゴ糖複合体を創製できた。このタンパク質-オリゴ糖複合体の糖結合量、抽出性、熱安定性を検討した。
(1)アルギン酸分解酵素を用いて調製したアルギン酸オリゴ糖(以下AO:平均重合度6)は、コイの筋原線維タンパク質(Mf)と容易に反応することが確認できた。またこの際、反応過程におけるAO濃度が高いほど結合量が速やかに増加することも確かめられた。AOはMf中のミオシン重鎖に速やかに導入されたが、反応を継続すると、アクチンやトロポミオシンなどの筋肉構成タンパク質も修飾されることが明らかとなった。
(2)AO修飾によって、Mfの低イオン強度溶媒に対する抽出性が著しく向上することが示された。一例として、糖修飾の進行に伴って0.16M
NaCl(生理的塩濃度)に対する抽出性は著しく上昇し、AO結合量が40μg/mg
of proteinになると、0.5M
NaClに対する抽出率とほぼ等しくなった。また、さらに反応が進行すると、高イオン強度溶媒に対する抽出率は低下傾向を示したが、低イオン強度溶媒に対する抽出率は高値を維持し、AO結合量が69μg
/mのMf-AOの抽出率はNaCl濃度(0.05M-0.5Mの範囲)とはほぼ無関係に50-60%を示した。
(3)60μg/mのAOを含むMfは0.5M NaCl(pH
7.5)中で90℃、30分間加熱してもほとんど不溶化せず、AOによる熱安定性改変効果が確認できた。さらに、低イオン強度溶媒に溶解させたMf-AOもまた、0.5M
NaClに溶解した未修飾のアクトミオシンより高い熱安定性を有していた。
(4)低イオン強度溶媒に対する抽出性と熱安定性が改変された時、Mf中のリジン減少量は約4%であったが、これは単糖修飾で同程度の抽出性改変効果が得られた際のリジン減少率の1/4であった。
(5)(2)の結果はグルコースやリボースのような単糖修飾によって改変される機能である。また、(3)の結果はデキストランのような多糖修飾によって改変される機能である。したがって、AOは「単糖」と「多糖」の機能改変効果を併せ持つ優れた「タンパク質機能改変素材」であることが示された。
(6)カニ甲羅由来のキトサンを亜硝酸分解してキトサンオリゴ糖(ChO)を調製し、AOの場合と同様の方法でMfのオリゴ糖修飾を試みた。その結果、電気泳動的にMf-ChOの生成が示唆された。しかしながら、ChOに含まれる亜硝酸の完全除去が困難であり、またオリゴ糖調製過程およびタンパク質-糖反応過程でキトサン分子間におけるアミノカルボニル反応の進行が認められた。
(7)亜硝酸分解キトサンオリゴ糖の欠点(6)を補うため、酵素分解したChOを用いてタンパク質修飾をおこなったところ、AOの場合と同様にMfの低イオン強度溶媒に対する抽出性の上昇が観察された。
アルギン酸オリゴ糖については優れたタンパク質機能改変剤である可能性が示唆された。今後は未検討のタンパク質機能におよぼす影響について検討するとともに、衛生学的安全性試験を実施し、食品製造への利用方法について検討する。特に筋肉タンパク質の水溶性化は新しい原料混合技術として利用できると同時に、筋肉タンパク質の消化吸収効果の改変が期待できる。この点を明らかにする事によって新しい栄養補給食品素材としての魚肉の利用を見出したい。
キトサンオリゴ糖については、修飾過程において残された未解決の問題を解決することが必要である。
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