海氷の油汚染を検知する衛星リモートセンシング手法開発の基礎研究

西尾文彦(北海道教育大学釧路校総合科学課程/教授)
青田昌秋(北海道大学低温科学研究所流氷研究施設/施設長・教授)
長幸平(東海大学情報科学技術センター/助教授)
榎本浩之(北見工業大学工学部土木開発工学科/教授)


背景・目的

 近年、北海道沿岸における船舶の座礁などによる海洋の油汚染が発生し、将来、大規模な油汚染の発生が危惧される。とくにオホーツク海で流氷が存在する時、油の漏出がある場合、海氷と油が混在したときの海面の様相と広がりがどのようになるのかを実験的に調べ、可視域の光学的特性およびマイクロ波帯の放射特性をもとに衛星センサーで検知し、油回収や被害最小のためのマイクロ波・可視センサーによるリモートセンシング手法の開発を目的とする。
 海氷と油の混在した海面の振る舞いは、海氷の種類および原油や重油のような油の種類によっても異なり、海氷・油・海水の混合体の放射特性を知っておく必要がある。そのために放射特性の実験的な基礎研究をおこなう。

内容・方法

 オホーツク海の海氷は一年氷である。グリースアイス、蓮葉氷のような新生氷から、小さな海氷板や直径数キロになる大海氷板に至るまで、さまざまな海氷が存在する。油の漏出があった時に、これらの種々の海氷と油が混在したとき、海氷と油が海水面でどのような混合体になるか。そして海面上での拡がりがどのようになるのかを実験的に水槽などで調べ、可視域の光学特性およびマイクロ波帯の特性を調べる。これらのスペクトル特性をもとに衛星センサーの組み合わせを考慮し、マイクロ波・可視の複合センサーによるリモートセンシング手法の開発を行う。
 海氷と油の混在した海面の振る舞いは、海氷の種類および原油や重油のような油の種類によっても異なる。また、風波による海氷・油・海水の混合体は風速によっても複雑に変化していくので、その過程での放射特性も知っておく必要がある。とくにマイクロ波レーダは荒天でも有効であるので、Lバンドのような散乱特性を散乱計を用いて水槽や実際の海氷面で実験的な基礎的な研究を行うことを予定する。

結果・成果

1)実験概要:今回の実験項目の内容であるが、1つはオイルと海氷が混ざり合ったときのスペクトルの観測と、時間経過によるオイルと海氷の混在状態の変化の観察である。油は入手の都合上、A重油を用いた。A重油はJIS規格で比重が0.9程度、90%が軽油成分で残りが重油成分である。燃焼温度が低いため、主にボイラーの燃料に使用されている。A重油が混ざり合った海氷、半透明の海氷、表面が白色の海氷(雪が付着している)、表面が濡れている海氷の4種類である。A重油の混ざり合った海氷は、実験サイトを設営してから5日経過したものである。その他の海氷は、湖氷を掘削し開水面を凍結させて作成したものである。実験で使用したA重油は、上澄みを次回の実験のためにそのまま回収し、残りを市販のエンジンオイル用回収箱に吸収させ、燃えるゴミとして処分した。
2)海氷と油の動きおよび混在状態:まず海氷と油の配置関係は海氷の方が、A重油より密度が大きいので海氷の上にA重油が存在する形になった。これは、A重油の密度(0.9g/)と海氷の平均的な密度(0.95g/)とを比較することによっても理解できる。重油が成分分離しているのが確認できた。上澄みは、黄色味がかった透明の油で、海氷の表面にタール上の物質が沈殿していた。本実験では、波浪による撹拌作用が無いので、温度条件のみで成分分離の現象が起こったものと考えられる。また、実験終了後に油の下に存在していた海氷を引き上げたところ、海氷中に細かい油滴が存在していることが確認できた。どのような経路で海氷中に取り込まれたかは定かではないが、ブライン・チャンネルの通り道を通って取り込まれた可能性や、海水が凍結するときに、表面に浮いていた細かい油滴が取り込まれた可能性も考えられる。
3)スペクトル:可視域では重油を含んだ海氷の方がアルベドが低く、他の海氷が高い値を示している。しかしながら波長700nm付近でアルベド値が逆転し、近赤外域は重油を含んだ海氷の方が高い値を示した。グラフのカーブも、重油を含んだ海氷とそれ以外の海氷とでは異なり、最初は重油を含んだ物が上昇傾向にあるに対し、それ以外の海氷は減少している。特に可視域では、重油を含んだ海氷と含まれていない海氷との値の差もある程度有るので、可視域のセンサーを用いたリモートセンシングでの適用が考えられる。
4)まとめ:本実験で、波浪の影響が極めて少ない海氷の存在する海でも、時間の経過によって重油が変質していく事がわかった。また、重油が海氷中に取り込まれることも確認できた。スペクトルは、重油がある場合と無い場合では、ある程度の変化が見られた。今後は、海氷の状態と油の位置関係を変えて実験し、海氷域での油の動きとリモートセンシングでの流出範囲の測定法を確立していく。

今後の展望

 サロマ湖での小規模の実験でも、波浪の影響が極めて少ない海氷の存在する海でも、日射や時間の経過によって重油が変質していく事が確認でき。また、重油が単に密度の違いだけでなく海氷中に取り込まれることも確認できた。スペクトルは、重油がある場合と無い場合での変化が見られた。今後は、海氷の状態と油の種類を変えて実験し、海氷域での油の動きと海氷が混在する状態のスペクトルの測定、および適正な既存および将来の衛星センサーを考慮してリモートセンシングでの流出範囲の測定法を確立していく計画である。