メラトニンの骨粗鬆症治療薬としての可能性

中出修(北海道医療大学歯学部口腔病理学講座/講師)


背景・目的

 高齢化社会を向かえ、骨粗鬆症の増加が社会問題となってきている。本研究者は松果体ホルモンであるメラトニンの分泌量の低下が骨粗鬆症の増加と相関することに着目し、メラトニンの骨に及ぼす作用に関する研究に着手した。その結果、メラトニンにはin vitro において、正常ヒト骨芽細胞の細胞増殖およびタイプIコラーゲン合成促進作用があることを発見した。本研究の目的は、in vivoにおけるメラトニンの骨吸収および骨形成に及ぼす影響を成長期動物および確立された骨粗鬆症モデル動物において検討することであった。

内容・方法

1.成長期動物における検討:合計24匹の4週齢のオスのddyマウスを各群6匹づつ、4群に分け、メラトニンを各々、夕方、0,1,5,50 m/oと濃度依存性に4週間、毎日腹腔内に注射した。実験終了後、1)骨塩定量法、2)骨形態計測法、3)血清骨代謝マーカーを指標とし、骨形成および骨吸収に及ぼす影響を検討した。
2.老齢化確立された骨粗鬆症モデル動物における検討:6か月齢のメスのWistarラットの卵巣を摘出した後、4か月間普通食で飼育、確立された骨粗鬆症モデルラットを作製した。開腹のみで卵巣の摘出を行わない偽手術群のラットをポジテイブコントロールとして設定し、卵巣摘出群との比較に用いた。上記と同様の方法でメラトニンを濃度依存性に10週間、毎日腹腔内に注射し、1)骨塩定量法、2)骨形態計測法、3)尿、血清骨代謝マーカーおよび4)骨強度を指標とし、骨形成および骨吸収に及ぼす影響を検討する。骨形成および骨吸収に及ぼす影響を検討した。

結果・成果

1.成長期動物における検討:1)5|50m/oのメラトニンは成長期マウスの脛骨において近位端1/4、骨幹中央部1/2および遠位端1/4の骨密度を有意に増加させ、また大腿骨においては遠位端1/4の骨密度を有意に増加させた。2)脛骨近位端における海綿骨領域の骨形態計測学的検討:上記の骨密度の上昇は骨形態計測により、海綿骨量(BV/TV%)の約50%の増加として反映されていた。その作用機序として5|50m/oのメラトニンは骨吸収パラメーター(破骨細胞面率、骨吸収面率)の減少が著明であり、骨形成パラメーター(類骨量、骨芽細胞面率、骨形成率)に及ぼす影響はほとんど認められなかったことから骨吸収抑制作用であることが示唆された。3)血液、生化学的検討:メラトニンの投与はマウスの血清Ca,P値に統計学的に有意な差は示さなかった。また、骨形成のマーカーであるアルカリフォスファターゼ、オステオカルシンの値に関しては50m/oのメラトニンでわずかに減少傾向を示したものの各群間で有意な差は認められなかった。4)体重および主要臓器の病理組織学的検討:メラトニン投与によってとくに体重および諸臓器(肝、腎、心、脾、腸管)の病的変化は認められなかった。
2.確立された骨粗鬆症モデルラットにおける検討:1)骨密度に及ぼす影響:メラトニン非投与群に比べ、50m/oのメラトニンは確立された骨粗鬆症モデルラットの脛骨において近位端1/4の骨密度を有意に増加させた。大腿骨遠位端1/4 の骨密度も上昇傾向を示したが、統計学的有意差には至らなかった。2)脛骨近位端における海綿骨領域の骨形態計測学的検討:50m/oのメラトニンはマウスの場合と同様に海綿骨量(%BV/TV)の増加が著明で、骨吸収パラメーター(破骨細胞面率、骨吸収面率)を有意に減少させていた。また骨形成パラメーター(類骨量、骨芽細胞面率、骨形成率)に及ぼす影響はほとんど認められなかった。3)血液、生化学的検討:メラトニンの投与はマウスの血清Ca,P値に統計学的に有意な差は示さなかった。また、マウスの場合と同様に骨形成のマーカーであるアルカリフォスファターゼの値に関しては50m/oのメラトニンでわずかに減少傾向を示したものの各群間で有意な差は認められなかった。なお、オステオカルシンに関しては現在、分析中である。4)体重および主要臓器の病理組織学的検討:マウスの場合と同様にメラトニン投与によってとくに体重および諸臓器(肝、腎、心、脾、腸管)の病的変化は認められなかった。3.結論:メラトニンはin vivo において骨吸収を抑制し、骨量を増加させる作用がある。

今後の展望

 今回の研究から、メラトニンにはin vivoにおいて骨吸収を抑制し、骨量を増加する働きがあることが世界で初めて明らかになった。これらの結果から、老化あるいは閉経により、分泌の低下するメラトニンを外部から補充することにより、骨粗鬆症を防止できる展望が開けてきた。今後はメラトニンの骨粗鬆症治療における臨床応用を視野に入れながら1.メラトニンの骨吸収抑制作用の機序解明。2.ヒトにおけるメラトニンの濃度と骨密度との相関関係3.メラトニンのヒト骨粗鬆症における臨床治験における有効性の有無等の検討を行っていく予定である。