|
本道の製糖産業を支えるテンサイは、細胞質雄性不稔性(CMS)を利用したハイブリッド品種が主流である。CMSは雄性配偶体の退化を引き起こすが、雌性配偶体および栄養器官の発育には何の影響も与えないという表現型を示し、その発現には核遺伝子とミトコンドリア遺伝子の両方が関与する。従って育種的応用をはかるにはCMS遺伝子とRf遺伝子の双方に関する知見が不可欠である。本研究の目的はRf遺伝子のクローン化とその作用の推定である。
1.Rf遺伝子存在下におけるミトコンドリア遺伝子の発現解析
BC1集団を材料に用い、個体別にミトコンドリア遺伝子の発現を調査して花粉稔症との相関を調べることによってRfのミトコンドリア遺伝子発現に与える影響を推し量る。すでに特徴付けを進めているCMS候補遺伝子を中心に転写産物ならびに翻訳産物の解析を進める。
2.Rf遺伝子に連鎖する分子マーカーの単離
テンサイCMS系統TK76-MSと稔性回復遺伝子を有する系統NK198を交配したF1、さらにF1を花粉親としてCMS系統TK81-0に戻し交配を行ったBC1集団を作出し、この集団について稔性を回復した個体、不稔個体より総DNAを抽出し、表現型毎にバルクを作製する。各バルクについてRAPDおよびAFLP解析を行い現れるバンドパターンを比較する。表現型に特異的なバンドについてバルクに含めなかった個体についてもさらに実験を行い連鎖を確認する。
1.花粉稔性分離集団におけるcoxl転写パターンの解析
花粉稔性を分離している集団におけるcox1転写パターン調査をするため、細胞総RNAに対してノーザンブロット解析を行った。その結果、Rfとcox1の転写パターンを変更する遺伝子座は独立であることが分かった。
2.RAPD法を用いた稔性回復遺伝子に対する分子マーカーの探索
BC1集団においてRAPD解析を行い、バルク法によりR
fと連鎖するRAPDマーカーの単離を試みた。BC1集団の可稔個体と不稔個体をそれぞれ任意に5個体ずつバルク化した。一次スクリーニングとして、この2つのバルクDNAに対して594個のプライマーを用い、RAPD解析を行ったところ、9種のプライマーを用いた場合にバルク間で多型が検出された。つづいて、バルク化しなかった可稔個体、不稔個体のそれぞれ8個体のDNAを鋳型に用いて、二次スクリーニングを行い、4種のプライマーでR
fとの連鎖が示唆された。更に、可稔個体17個、不稔個体18個の各個体DNAに対して、この4種のプライマーを用いてRAPD解析を行った。その結果、AB-18、AJ-13およびAB-18で密接な連鎖関係が示された。総解析バンド数は5100本、検出効率は0.04%である。
3.AFLP分析による分子マーカーの探索
高精度のマーカー単離を目的としてAFLP分析を試みた。BC1集団から不稔個体、可稔性個体をそれぞれ15個体づつ選択し、これらをさらに5個体づつ3本セットのバルクにふり分けた。まず、1セットのバルクに対し1次スクリーニングとして1,168種のプライマー組み合わせを供試し、259のプライマーの組み合わせにおいて可稔個体のバルク側にのみ存在する多型バンドが検出された。この259プライマー組み合わせに対し、異なるバルクを用いた2次スクリーニングを進めた結果、33のプライマー組み合わせで1次スクリーニングと同一の多型バンドが見られた。さらに、これら33プライマー組み合わせを用いて残ったバルクに対して3次スクリーニングを行ったところ、12種のプライマー組み合わせにより可稔個体にのみ存在する多型バンドが検出された。
次に個体別にこれらのバンドの有無を調査した。その結果、6種のプライマー組み合わせにより生じる7本の多型バンドにおいてR
fとの強い連鎖が見られた。総解析バンド数は78000本であり、検出効率は、RAPD法と異なるストラテジーを用いたため単純な比較はできないが、0.009%である。
本実験によりテンサイRfに連鎖する分子マーカーが多数得られた。今後は新たなマーカーを探索し、Rf遺伝子座の高密度連鎖地図を完成する。さらにゲノムライブラリーを作成して分子マーカーを用いたスクリーニングを行い、R
fを含むゲノミッククローンを単離し、Rfをクローン化する。またCMSの原因となるミトコンドリア遺伝子らしい領域を既に見いだしており、それに対するRfの作用を調べる。Rfの分子的な作用をより詳しく調べるため、クローン化が完了した後、アンチセンス阻害株や過剰発現株を作成して表現型を調査する。
|