バイオミネラリゼーションをモデルとした二酸化炭素の石灰化

中田耕(北海道大学大学院地球環境科学研究科/助手)


背景・目的

 貝類やサンゴでは酵素を用いて二酸化炭素から貝殻やサンゴの骨格であるCaCO3を形成している。この反応を行なう酵素(Nacrein)については現在研究が着手されたばかりであり、不明な点が多い。この酵素の反応に直接関与する部分(活性中心)を実験的に再現できれば、二酸化炭素からCaCO3への変換を穏和な条件でスムースに行なうことが期待できる。本研究では酵素反応をモデルとして、活性中心に類似した化合物を用いて人工的に二酸化炭素をHCO3-、CO32-とし、さらにカルシウムイオンによって固体のCaCO3と変換することを目的とする。

内容・方法

 申請者はこれまでNacrein活性中心の二酸化炭素の水和反応の機能を受け持つ部分(carbonic anhydraseに類似した部分)に類似した化合物を用いて人工的に二酸化炭素をHCO3-に変換できることを明らかにしている。これまで申請者が用いてきた様な図1の化合物にCa2+との反応を担当する部分を付加し、これら2つを隣接させることによって、二酸化炭素を水和しさらにCaCO3に変換することが期待できる。酵素に関する研究からCa2+との反応を担当する部分はカルボキシル基(-COOH)を多く含んでいる事が明らかになっている。具体的には、carbonic anhydrase活性中心の亜鉛は3つのヒスチジンに由来するイミダゾール基と1つのH2 Oによる4配位四面体型構造をとっているため。モデル錯体に用いる配位子としては、carbonic anhydrase活性中心との類似性を保つためこれまで申請者が用いてきた3つベンズイミダゾールをもつ配位子を基本とし、Ca2+結合サイトとして配位子の一方の端にカルボキシル基を導入する(図2)。

結果・成果

配位子の合成 
配位子の合成はスキームに従って行った。目的物であるtris(1-methyl-2-benzimidazolylethyl)methylamino-2-oxoetylaminoiminodiacetic acid Lを得た。得られた化合物は元素分析、1H、13CNMR、FAB-MS、IR により同定した。

pH 滴定および1H NMR滴定による酸解離定数、錯生成定数の決定 配位子Lの酸解離定数および亜鉛との錯生成定数を求めるためにpH 滴定を行なった。また、1HNMR滴定による化学シフトの変化から、酸解離する部位を特定した。
二酸化炭素との反応 pH9に調製したL2-:Zn2+=1:1溶液に二酸化炭素を6時間バブルした所、白色沈殿と溶液に分離した。分析の結果から、白色沈殿には、L2とZn2+が1:1で含まれていることが明かとなった。上澄み溶液はpH 10程度にするとCaCO3の沈殿を生じた。これはpHを上げることによって溶液中に存在するHCO3がCO32-となり、さらにCa2+と結合してCaCO3の沈殿を生じたものと考えられる。この亜鉛錯体は溶解度が極めて小さいため、種々の測定には困難が予想される。

今後の展望

 今後、良好な反応条件、反応速度、反応メカニズム、3次元構造に関する詳細なデータを得るためにLと亜鉛との錯体のX線結晶構造解析等について研究を深めたい。また、これまでの研究結果から、Ca2+結合サイトとして2つのカルボキシル基では不十分であると考えられるが、カルボキシル基の数を増やすのは有機合成上の困難が大きい。そのためCa2+の保持としてCa2+と大きな生成定数をもつ環状のクラウンエーテル、クリプタートの可能性を検討したい。また、亜鉛錯体の溶解度の向上を目指して、親水性のスルホン酸基の導入についても検討したい。