ビデオカメラによる土地利用分析手法の開発GISによる定量分析

堤純(北海道大学文学部地域システム科学講座(地理学)/助手)


背景・目的

 様々な都市計画あるいは諸政策の策定や、都市成長過程の分析には、混在の度合いを増している土地利用現況を定期的かつ定量的に把握することが不可欠である。しかし、多くの調査員を必要とする土地利用調査の現時点での一般的な方法では、データの収集・加工が効率的であるとはいえない。そこで本研究は、ビデオカメラ(市販品で十分可能)を用いて現時点での土地利用現況を短時間に効率的に撮影することをとおして、土地利用現況を定量的かつ効率的に把握する方法を確立することを目的とする。

内容・方法

 従来の土地利用調査では、多くの調査員が必要とされ、また、結果の地図化にも多大な労力と費用がかけられていた。しかし、申請者はすでに、空中写真とGIS(地理情報システム、ワークステーション版ARC/INFO Ver.6)を援用して過去の土地利用現況を復元する方法を開発済みであった。この方法は、都市内の各区画ごとをディジタイジングすることにより、磁気化された地図データを作成する。そして、各区画(都心部の調査の場合、数千区画程度)に独自のID識別コードを付与する。次に、別途作成する土地利用データベースに各種の属性情報を与える。具体的には、土地利用コード(例えば、オフィスビルをコード1、住宅をコード2、など)、区画面積(登記簿上の地積をデータとすることも、あるいは、GISによる計算値をデータとすることも両方とも可能)などを付与する。これらのデータを、ID識別コードと対照することにより地図データ上に表示させるというものであった。本申請では、ビデオカメラを用いて効率的に撮影した土地利用現況を、大学の研究室でパソコンを用いて画像解析することにより、上記方法を現時点での土地利用分析にも応用した。

結果・成果

 本申請では、中規模都市である群馬県前橋市を主たる研究対象地域とする、平成10年度・平成11年度文部省科学研究費補助金奨励研究(A)「個人・法人の意思決定からみた土地利用変化のメカニズムに関する研究」(研究代表者:堤 純)との関連から、効率的な土地利用現況の把握方法の開発を目的とした。これらの研究は、個々の土地利用変化に関与したキー・パーソンの意思決定の側面から都市成長のメカニズムを解明することを目的としていた。
 上記の関連研究により、本申請によって確立した土地利用の分析方法も、主として群馬県前橋市における調査結果に依拠している。ビデオカメラを用いて効率的に撮影した土地利用現況を、大学の研究室でパソコンを用いて画像解析し、土地利用に関するデータベースを作成した。このデータベースに記録された各種の属性データをGISによって地図化した。
 このように、本研究では、GISによって様々なデータを地図化できることが大きな特色の一つである。本研究で確立した土地利用の分析手法は、単に現時点の土地利用状況の把握に留まるものではない。現地調査に割ける時間は限られているが、土地利用現況を定量的かつ効率的に把握することができたため、調査時間を効率的に配分することも可能となった。前橋市役所や群馬県庁(両者とも主に都市計画担当部局と企画調整担当部局、資産税関係部局)、前橋市立図書館、群馬県立図書館、群馬大学附属図書館などにおいて、現在と過去の双方に渡る土地利用や土地所有に関わるデータ、並びにそれらに関連する郷土資料なども収集した。これらの結果をデータベース化し、合わせて地図化した。
 具体的には、空中写真を用いて別途作成した過去の土地利用状況とオーバーレイさせることにより、過去から現在に至る土地利用の変化地点を抽出して新たな地図を作成することが可能となった。また、ID識別コードをもとに、すでに作成した「過去の土地利用コード」、「現在の土地利用コード」、「土地利用変化コード」などと、別のデータベースとを統合することも可能である。例えば、土地所有に関わるデータを、ID識別コードを対照して地図データ上に表示させることにより、土地の異動(所有権移転や売買)と土地利用変化との関連などを把握することも可能となった。
 加えて、本研究では、全データをデジタル化し、GIS(地理情報システム)によって解析したため、近年急速に整備されつつある空間基盤データへのデータ応用も比較的容易である。本研究では、今までに蓄積したデータの有効活用を図る観点から、従来通りワークステーション版の地理情報システムのソフトウェアを使用したが、今後は、より汎用性の高いパソコン版のソフトウェアによる解析も期待できる。

今後の展望

 本研究では、現地調査に割く時間・費用を大幅に削減することができたため、様々な都市計画あるいは諸政策の策定や、都市成長過程の分析に効果が期待できる。従来では個別に分析され、定性的な分析に留まる傾向の強かった都市化、土地所有形態の変化、法規制等の土地利用変化に作用する諸要因をデータベース化し、それらの集計や地図化によって様々なデータを定量的かつ包括的に分析することは、実用的にも学術的にも大きな現代的意義をもっている。