シダ植物の調査と科学的検証−北海道限定20数年の累積成果−

合田勇太郎(日本シダの会)


背景・目的

 「種の保存」という視点から1979〜1997年迄の間、東京大学倉田悟、国立科学博物館中池敏之など、両氏を中核とした全国的組織で、シダ植物を採取し、証拠標本を基盤に、「日本シダ植物図鑑1巻〜8巻」迄を完成いたしました。この間、この過程に全面的に参加し、北海道部分の完成に積極的に協力してきましたが、継続的、累積的研究成果から未完成部分が散見されるようになりました。したがって、今回は、でき得る限り北海道部分を補充追加し、北海道シダ植物の全分野を網羅、総括し、さらに、一般化、大衆化されることを目的として集約、整理してみたいと思います。

内容・方法

 全国各地の発送標本は、国費建築の、乾湿、温度、防虫調整機能付き地下標本庫に永久保存され、現存の地球環境診断の資料となり、さらには、未来の地球環境診断の際の「種保存」測定の相対的比較資料として役立つことになっています。このことを前提に全国的、統一的に企画され、次のような方法で、北海道分野を担当し実施してきました。
ア)北海道における5万分の1の地図を準備し、1枚を4つに区分して利用した。
イ)採集地点は地図の地形から推定して、分布可能な場所を任意に選定した。
ウ)一回に採取する個体数が多く、現地での標本作成が困難なので、持参してから実施するため、ビニール袋に挿入し密封して大量に運搬した。
エ)乾燥した標本は、国立科学博物館に発送し、判定確認のもとに整理された。
オ)家内との全面的協力によって実施し、今年度以外の大量の諸経費は個人負担として推進してきた。

結果・成果

 日本シダ植物図鑑1巻〜8巻までの標本による北海道の分布地数は、約7694点で、このうち、われわれ家内との採取記録数は約4883点となっている。本研究は、これに補充追加分布地数約4408点を累加したので、約12102点のデータとして処理し、これらの結果を、次のように整理しました。
a)証拠標本を一点として、種類別に一枚ずつの北海道の分布図を作成した。
b)種類別の分布図を支庁別単位に区分し、数量化、統計化し、さらに、単位面積当たりの出現頻度をも算出して、種類ごとに、それぞれ2枚ずつのグラフを作成し、実態が分かりやすいようにした。
c)同定をうけた標本は、基準標本とし、継続的研究に役立つように保存した。
d)生育状態と形態的特徴をできるだけ写真に撮影し記録とし整理した。
 この調査研究は、分布の実態把握が主眼であったが、これらの資料を基盤にして、さらに種類別の形態的特徴、生育環境、それに生活型などをも加えて総合的に分析し、その結果、多くの事柄を実証することができた。これらを、次のように要約してみたいと思います。
ア)胞子のう群の葉全体にたいする配列状態からは、上葉型、下葉型、全葉型、穂状型、果状型、葉変型などに、ついで胞子のう群の着生位置からは、辺縁型、中肋型、中間型、斜上型、反転型、巻包型、散生型、脈沿型などのように、類型化することができた。
イ)包膜の形状を円腎形、楕円形、線形、円形、カギ形、馬蹄形、薄膜形、偽包膜、盆形、洋盃形、双膜形、コップ状などの観点から区別することができた。
ウ)鱗片の形状を特性との関連で考察し、その多様性が種判定の参考になることを認識することができた。
エ)根茎や根の状態からは、匍匐型、直立型、直立分枝型、横走型などに区分し、生育形態との相互性で理解することができた。
オ)常緑性と夏緑性に2大別し、分布の実態を数量化し、統計的に整理してみると、常緑性シダは、約4割となり、夏緑性にたいして、予想外に多いことを確認することができた。
カ)分布地域と生活型との関連については、これを岩石・樹幹タイプ、石灰・蛇紋岩タイプ、亜高山・高山タイプ、山地・林床タイプ、荒れ地タイプ、湿・半乾性タイプ、山岳・林床タイプ、湖沼・河川タイプ、水生タイプ、海岸性タイプなどに区別し、生育環境の多様性との関連で、把握することができた。
キ)生育環境との相互性では、さらに自然保護型と自然破壊型に2大別整理し、自然破壊型に生育しているのが、約8割をしめていることを把握することができた。

今後の展望

 シダ植物は、大衆からの疎外感が大きく、そのために、自然破壊につれて、衰退の激しい傾向にありますが、進化的系統的にも重要な位置にあることから、多くの人々に理解をはかることが、必要と考えます。そのためには、「日本のシダ植物図鑑」の北海道版という形式で、紹介する機会があればと思っております。多くのエネルギーとお金を浪費して、推進してきましたが、時間的な関係で、高山帯と遠隔地域は調査が不十分になっていると思います。
 最後に、標本を保存している、本州の大学と博物館は、全面的に協力したのですが北海道大学は部分的協力でしたので、北海道の充実度だけが、低くなり、極めて残念なことです。さらに、今後の追加調査と補充に期待いたします。